やさぐれる

予備校の授業で「やさぐれる」ということばをなにげなく使ったら、生徒から「どういう意味ですか?」という質問が出た。あー、そっか、これも幾分古めかしいことばだし、生徒にとってあまり耳馴染みのないことばをつかってしまったのは迂闊だったかな、と思ったりしたんだけど、それよりも生徒に言われて意外だったのは、「やさぐれる」が辞書には載ってない、ということ。これはちょっと虚をつかれたかんじだったんだけど、実際に辞書を引いてみると、たしかに載ってない。「やさぐれる」なんて、わりと昔からある言い方だろうと漠然と思ってたので、これにはちょっと意外なかんじを受けた。
で、気になったので、家に帰ってからとりあえずgooの辞書で引いてみた

やさぐれる
(動下一)
(主に若者言葉で)すねる。投げやりになる。
〔もと,不良の隠語で,「家出をする」「家出人」の意であった「やさぐれ」(「やさ」は「家」,「ぐれ」は「はずれる」の意)を動詞化したことば。「ぐれる」の部分から連想した誤用によって用法が広がったか〕
三省堂提供「デイリー 新語辞典」より

おお、やっぱり「国語辞典」ではなく「新語辞典」に載っている。
ということは、意外と新しいことばだったりするのかなって思って、とりあえず「やさぐれる 語源」でググってみたら、次のような記述のあるサイトを発見(引用元はこちら)。

やさぐれる」を辞書で引いてみました。しかし!『新明解国語辞典』『明鏡国語辞典』『岩波国語辞典』『新潮現代国語辞典』『三省堂国語辞典』『日本語新辞典』『広辞苑』には「やさぐれる」が載っていないのです!ようやく『日本国語大辞典』に「やさぐれ」が載っていました。
「やさぐれ」=家出人をいう、やくざ・不良仲間の隠語
そ、そうだったのか!では、これを引いてみようっと。『日本俗語大辞典』。
「やさぐれ」=「やさ」は家、「ぐれ」は悪いこと。家出。家出人。住居不定。住居不定者。テキヤ・不良のことば。
用例の一番古い物は、1952年の『戦後風俗史』(矢野目源一)でした。しかし、「やさぐれる」という動詞は載っていませんでした。どこにも載っていない。

ふむふむ。
ということは、でも、少なくとも1950年代にはあったことばなのね。だとすれば、これがほとんどの辞書に載ってないっていうのはやっぱりふしぎなかんじ。
試しに、パッと思いついたところで、「ナウい」をgooの辞書で引いてみたら、こちらはちゃんと「大辞林」に載っているらしい。「やさぐれる」が「新語辞典」で、「ナウい」が「国語辞典」というのは、なんだかちょっと変なかんじもするんだけど、「やさぐれる」はわたしが思うほどのポピュラリティは獲得していなかったのかしら。
ちなみに、上の引用元のサイトでは、川上弘美のエッセイに「やさぐれる」ということばが出てきたことに言及している。いまや幾分古めかしく聞こえもするこのことばだけど、もともとこのことばがもっていた「やくざ・不良仲間の隠語」といったニュアンスはいまや薄れてしまい、その「古めかしさ」ゆえにかえってほのかなおかしみや哀愁をたたえた独特のニュアンスをもって使うことができるようになっているかもしれない。